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シャドーAI対策の始め方——「禁止」がむしろリスクを増やす理由

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「うちの会社でChatGPTを使っている社員は、ほとんどいないはずだ」——そう思っている会社ほど、実際には使われています。個人のスマートフォンで、個人アカウントで、あるいは自宅のPCで。会社が把握しないまま社員それぞれの判断で生成AIを使う状態は「シャドーAI」と呼ばれ、許可されていないクラウドサービスを勝手に使う「シャドーIT」のAI版として、いま急速に広がっています。

本記事では、シャドーAIがなぜ禁止では解決しないのかを整理したうえで、中小企業が現実的に始められる対策の順番を解説します。

シャドーAIとは——シャドーITのAI版

シャドーAIとは、会社の情報システム部門や経営層が把握・管理していない生成AIの利用を指します。典型的には次のような形で起きます。

  • 社員が個人アカウントでChatGPTなどに業務の文章を貼り付けて要約・翻訳させる
  • 顧客への提案書やメールの下書きを、会社が許可していないAIサービスで作る
  • 開発者が個人契約のAIコーディング支援ツールに社内のソースコードを渡す

IPA(情報処理推進機構)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編に初めて選出され、いきなり第3位に入りました。従業員が機密情報を不用意にAIへ入力してしまう行為、つまりシャドーAIは、その中心的なリスクとして挙げられています。

重要なのは、シャドーAIを使う社員のほとんどに悪意がないことです。仕事を早く終わらせたい、品質を上げたい、という真っ当な動機で使っています。だからこそ、単純な取り締まりでは解決しません。

なぜ「禁止」では消えないのか

シャドーAIの根本原因は、「業務上の需要があるのに、会社公認の使い方が用意されていない」ことにあります。禁止はこのギャップを埋めるどころか、広げます。

第一に、禁止しても需要は消えません。隣の会社がAIで見積書を30分で作っている時代に、自社だけ手作業を続ければ生産性で負けます。社員はそれを肌で感じているため、禁止されても「バレない方法」で使い続けます。

第二に、禁止は利用を見えなくします。会社のネットワークで堂々と使われていたAIが、個人スマートフォンの回線や自宅のPCに移るだけです。会社支給の環境で使われていれば残ったはずの記録すら、残らなくなります。

第三に、禁止は相談を止めます。「これは入力してよい情報か」と迷った社員が、禁止されている手前、誰にも聞けずに自己判断で入力する。最も相談してほしい場面で、相談の窓口が閉じてしまうのです。

放置すると何が起きるか

では放任すればよいかというと、そうもいきません。シャドーAIを放置した場合に問題になるのは、実は「漏えいが起きること」だけではありません。

説明できないことが、それ自体でリスクになります。 取引先のセキュリティチェックシートには、近年「生成AIの利用ルールはあるか」「入力情報を管理しているか」という設問が増えています。サイバー保険の引受審査や、プライバシーマーク・ISMSの審査でも同様です。このとき「誰が、どのAIに、何を入力しているか分からない」状態では、回答のしようがありません。

また、万一顧客情報の漏えいが疑われる事態になったとき、シャドーAI状態では「入力していない」ことの証明も「入力してしまった範囲」の特定もできません。事故対応の初動が、記録がないという一点で行き詰まります。

対策の3ステップ——実態把握から始める

シャドーAI対策は、大がかりなシステム導入から始める必要はありません。順番が大切です。

ステップ1: 実態を把握する

まず「うちの会社でAIはどう使われているか」を知ることから始めます。匿名アンケートでも、部署ごとのヒアリングでも構いません。このとき「正直に答えても罰しない」と明言することが重要です。目的は取り締まりではなく、需要の把握です。どの業務で、どのAIが、どれくらい役立っているのかが分かれば、公認すべき範囲が見えてきます。

ステップ2: 線を引く

次に、「入力してよい情報」と「入力してはいけない情報」の線を引きます。顧客名や個人情報、見積金額、ソースコードなど、自社にとっての機密が何かを整理し、社員が迷ったときに参照できる形にします。ルールの作り方の詳細は別記事で解説しています。

ステップ3: 経路を見える化する

ルールを作っても、守られているかが見えなければ、ルールは数か月で形骸化します。最後のステップは、AI利用の「経路」を見える化することです。会社のネットワークからAIサービスへ向かう通信を一つの出口に集めれば、誰が・いつ・どのAIを使ったかが記録として残り、ルールが「お願い」から「運用」に変わります。

「経路で見る」という考え方

AI利用の管理には、端末にエージェントを入れる方法、AIサービス側の企業向けプランで管理する方法など、いくつかのアプローチがあります。その中で「通信経路で見る」方法には、次の特徴があります。

  • AIサービスを問わず記録が残る。 サービスごとの管理画面を回らなくても、経路側で横断的に把握できます。
  • 通常のWebと分けられる。 AI宛の通信だけを管理対象にすれば、社員のWeb閲覧全体を監視する必要はありません。監視色を薄くできることは、社員の納得感に直結します。
  • 段階的に強くできる。 最初は「誰がどのAIを使ったか」の記録だけから始め、必要に応じて入力内容の検知やマスキングへ育てられます。

どのアプローチにも守備範囲があります。たとえば経路で見る方法は、会社の管理が及ばない私物端末・個人回線の利用までは対象にできません。だからこそ、仕組みだけに頼らず、ステップ1・2で作った「公認の使い方」と組み合わせて、社員が会社の経路を通りたくなる状態を作ることが大切です。

まとめ——止めない対策へ

シャドーAIは、禁止すれば地下に潜り、放置すれば説明不能になります。出口は「使わせながら、見える状態にする」ことです。

  1. 実態把握——需要を知る(罰しないことを明言する)
  2. 線引き——入力してよい情報のルールを作る
  3. 経路の見える化——ルールを記録で支える

この順番なら、明日からでも始められます。AIを止めずに、会社の外へ無防備に出さない。その両立が、シャドーAI対策のゴールです。

社員のAI利用を、止めずに管理する仕組みを。

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