機密を扱うAIはどこで動いているか 政府の生成AI 252件の内訳を読む
「機密情報はAIに入れない」と決めている会社ほど、実際には、どの情報が機密にあたるのかを各自の判断に任せている状況が見られます。見積書の金額、取引先の担当者名、社内の議事録。入れてよいかどうかを毎回迷うものは、結局その場の判断で入力されていきます。
この線引きを、利用者の多い組織はどう決めているのか。手がかりになる資料が、2026年9月29日に公表されました。デジタル庁の先進的AI利活用アドバイザリーボード(第6回)に提出された「各府省庁生成AIシステム定期報告概要(令和8年度第1回)」です。令和8年6月末時点の利用状況を、各府省庁が7月に報告したものをまとめています。
資料によると、全府省庁が生成AIシステムを利用しており、利用中のシステムは252件です。この記事では、そのうち「扱う情報の機密度」と「AIを動かす環境」の関係を示した表を読みます。
機密度別のAI使い分けとは何か?
機密度別のAI使い分けとは、扱う情報の機密度に応じて、使ってよいAIの環境と入力してよい範囲をあらかじめ分けておく考え方を指す、この記事での呼び方です。資料に出てくる公式の用語ではありません。政府の252件では、公開できる情報だけを扱う案件の多くがインターネット経由のAIを使い、機密度の高い情報を扱う案件は自前の環境に寄る傾向が表に出ています。ただし、環境を分けるだけでは終わらず、インターネット経由のAIにも機密度の高い情報を入力している案件が一定数あります。
以下、表の数字を順に確認します。
252件はどの環境で動いているのか
資料は、AIを動かす環境を4つに分けています。
| 環境の類型 | 資料での説明 | 案件数 |
|---|---|---|
| SaaS・API型 | インターネット経由でSaaS・APIを利用 | 175 |
| 政府共通基盤等活用型 | 政府が共通で用意した基盤の生成AI機能を活用 | 47 |
| オンプレミス型 | 自らのサーバ上でローカルLLM等を活用 | 22 |
| ハイブリッド | 上記を併用して構築 | 8 |
252件のうち175件、およそ7割がインターネット経由の利用です。自前のサーバーでAIそのものを動かしている案件は22件で、1割に届きません。
民間の会社にこのまま当てはまる類型は、SaaS・API型とオンプレミス型の2つです。ChatGPTのようなサービスを契約して使う形が前者、社内に置いたサーバーでAIを動かす形が後者にあたります。
機密度の高い情報は、どの環境に寄っているのか
政府機関は、情報を機密性という尺度で格付けしています。資料の表は、「機密性1情報のみ」を扱う案件と、「機密性2情報や個人情報」を扱う案件を分けて集計しています。この記事では、おおまかに、機密性1を「公開できる情報」、機密性2を「外に出すと支障が出る情報」と読み替えて進めます。民間でいえば、前者は公開済みの製品情報や一般的な調べもの、後者は取引条件や社内資料に近い区分です。
資料の表は、環境の類型ごとに、どの機密度の情報を扱っているかを集計しています。
| 類型 | 件数 | 機密性1のみ | 入力 | 参照 |
|---|---|---|---|---|
| SaaS・API型 | 175 | 122 | 31 | 31 |
| 政府共通基盤型 | 47 | 15 | 28 | 15 |
| オンプレミス型 | 22 | 6 | 9 | 9 |
| ハイブリッド | 8 | 6 | 2 | 2 |
表の「機密性1のみ」は資料の「機密性1情報のみ取り扱う」、「入力」は「機密性2情報や個人情報を利用者が入力」、「参照」は「機密性2情報や個人情報を参照して出力」の件数です。
機密度の列は複数選択で集計されているため、横に足しても案件数とは一致しません。そこで、重なりのない「機密性1情報のみ取り扱う」の列だけを案件数と比べます。SaaS・API型は175件中122件、オンプレミス型は22件中6件です。割合に直すと、SaaS・API型はおよそ7割、オンプレミス型は3割弱になります(割合は資料の件数から計算したものです)。
資料自身も、この表について「オンプレミス型では、機密性2情報や個人情報を取り扱っている案件の割合が他の類型と比較して大きい」と述べています。
読み取れるのは、環境の選択が機密度と結びついていることです。公開できる情報だけを扱う用途はインターネット経由で済ませ、外に出せない情報を扱う用途は自前の環境へ寄せる。252件という規模で、この使い分けが数字に表れています。
クラウド型に機密度の高い情報は入っていないのか
入っています。表のSaaS・API型の行には、「機密性2情報や個人情報を利用者が入力」が31件、「参照して出力」が31件あります。インターネット経由のAIであっても、機密度の高い情報を扱うと報告された案件が一定数あるということです。
これは事故の件数ではありません。資料は、令和8年6月末時点までで「リスクケースの発生事例はなし」としています。31件は、機密度の高い情報を扱うことを前提に、そのように報告されている案件です。
ここから言えるのは、環境を分けても線引きの仕事は残るということです。インターネット経由のAIを業務で使う限り、「このAIにはどこまで入れてよいか」を決め、実際の入力がその範囲に収まっているかを確かめる必要が出てきます。
入力の経路についても、資料に記述があります。機密性2情報を取り扱う案件は、利用者が指示文に入れるか、AIに文書を参照させて回答を作らせる形がほとんどで、AIの追加学習に使う案件はわずかです。利用類型別に見ると、利用者が自由に入力する汎用チャット型で、機密性2情報や個人情報を指示文に入力するとされた案件が、利用開始済みのものだけで43件あります。機密度の高い情報がAIに渡る場面の多くは、利用者が入力欄に書き込む瞬間にあります。
自社では、何から決めればよいのか
政府の集計は、252件それぞれについて「どの環境で」「どの機密度の情報を」「どの経路で」扱うかを報告させた結果です。この3つを答えられる状態にしておくことが、線引きの出発点になります。専任の情シス担当がいない、または総務や経営者が兼任している会社でも、次の順番なら着手できます。
ステップ1: 情報を2つか3つの区分に分ける。 細かい分類は続きません。「公開してよい情報」「社外に出せない情報」「個人情報を含む情報」程度の区分にとどめ、迷いやすい例(見積金額、取引先の担当者名、議事録)がどこに入るかを先に決めます。
ステップ2: 使っているAIごとに、入れてよい区分の上限を決める。 契約して使うAI、無料で使われているAI、社内の文書を参照させているAIを並べ、それぞれに上限を書きます。政府の表でいう環境の類型と機密度の対応を、自社の規模で作る作業です。ルールの文面はAI利用ルールの作り方で整理しています。
ステップ3: 入力の記録が残るかを確かめる。 上限を決めても、実際の入力が見えなければ、守られているかどうかを確かめられません。サービスの管理画面で見える範囲、見えない範囲を確認します。見え方の違いは社員のAI利用を可視化する3つの方法で比べています。
ステップ4: 上限を超える入力をどう扱うかを決める。 止めるのか、伏せて通すのか、記録して後から確認するのか。伏せて通す考え方はマスキングという考え方で取り上げました。
ステップ5: 定期的に報告を取り直す。 政府の報告は定期的に行われ、前回との比較が付いています。使うAIは増えるため、一度決めた対応表は古くなります。半年に一度、ステップ2の一覧を取り直す時期を決めておきます。
AI関所BOXは、オフィス内に置いた関所を通してAI利用だけを取り出し、利用状況・入力内容・検知を社内で管理するオンプレミス型のAIガバナンスBOXです(現在PoC検証中)。資料のいうオンプレミス型のように社内でAIそのものを動かす機器ではなく、インターネット経由のAIを使うときの入力を、社内で確かめるためのものです。ステップ3とステップ4にあたる部分を、サービスごとの管理画面に頼らずに行う選択肢の一つとして位置づけられます。
よくある質問
自前の環境でAIを動かせば、入力の線引きは要らなくなりますか?
要らなくなるとは言えません。資料では、オンプレミス型の案件について、外部から収集・提供されるデータやプライバシーに関するデータを用いるため、情報セキュリティ等を考慮する必要がある案件が一定程度見受けられるとされています。また、自前の環境を用意しても、手軽なインターネット経由のAIが並行して使われる状況は残ります。どの情報をどのAIに入れるかの対応表は、環境の種類にかかわらず必要です。
クラウド型のAIに機密度の高い情報を入れるのは、してはいけないことですか?
資料は是非を述べていません。SaaS・API型で機密性2情報や個人情報を利用者が入力するとされた案件が31件あること、令和8年6月末時点までリスクケースの発生事例がないことが報告されています。契約の条件や設定によって扱える情報は変わるため、一律に禁止するか許可するかではなく、AIごとに上限を決めて確かめる形が、資料の集計の仕方に近い進め方です。
政府の数字を、民間の会社にそのまま当てはめてよいですか?
そのまま当てはめることはできません。機密性1、機密性2は政府機関の格付けであり、政府共通基盤のように民間にない環境も含まれています。この記事で参考にしているのは割合そのものではなく、環境と機密度と入力経路の3つを案件ごとに報告させているという整理の仕方です。
まとめ
- 政府の生成AIシステム252件のうち、インターネット経由のSaaS・API型は175件、自前のサーバーで動かすオンプレミス型は22件です。
- 公開できる情報だけを扱う案件は、SaaS・API型で175件中122件、オンプレミス型で22件中6件でした。機密度の高い情報を扱う用途ほど、自前の環境に寄っています。
- それでも、SaaS・API型で機密度の高い情報や個人情報を利用者が入力するとされた案件が31件あります。環境の使い分けと、入力の線引きは別の仕事です。
- 線引きは、情報の区分、AIごとの上限、入力の記録、超えた入力の扱い、定期的な見直しの順に決められます。
- 「機密度別のAI使い分け」は、この関係を捉えるために設けたこの記事での呼び方です。
出典
- デジタル庁 第6回先進的AI利活用アドバイザリーボード(2026年9月29日開催)資料1「各府省庁生成AIシステム定期報告概要(令和8年度第1回)」 本文PDF
- デジタル庁 第6回先進的AI利活用アドバイザリーボード 開催情報
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